ロウソクに火を灯す少年

『ロウソクに火を灯す少年』
スペイン語: El Soplón
英語: Boy Blowing on an Ember
作者エル・グレコ
製作年1571-1572年
寸法60.5 cm × 50.5 cm (23.8 in × 19.9 in)
所蔵カポディモンテ美術館ナポリ

ロウソクに火を灯す少年』(ロウソクにひをともすしょうねん、西: El Soplón: Boy Blowing on an Ember) は、ギリシアクレタ島出身のマニエリスム期のスペインの巨匠エル・グレコローマファルネーゼ宮殿に滞在していた時期の1571-1572年に制作した油彩画である。絵画の由来はわかっていないが、ファルネーゼ家からの直接の依頼であった可能性があり、ファルネーゼ家の所有となった本作[1]はカルロ7世 (後のスペイン王カルロス3世) により1734年にナポリにもたらされた。1799年、フランス軍によって略奪されたが、すぐ後にローマの美術市場で発見され、ドメニコ・ヴェヌーティによりナポリに送り返された[2]。現在、ナポリのカポディモンテ美術館に所蔵されている。

帰属

本作は、最初ファルネーゼ家お抱えの画家であり、写本装飾を手掛けた細密画家であったジュリオ・クローヴィオに帰属されていた。後にフランス軍に略奪された本作をナポリに送り返したドメニコ・ヴェヌーティは、ローマでバロック絵画の巨匠カラヴァッジョの影響を受けた17世紀オランダの画家ヘラルト・ファン・ホントホルストに作品を帰属した。そのほか、作品をヤコポ・バッサーノに帰属した研究者もいたが、1852年、サン・ジョルジョの作成した目録でエル・グレコ作とされた。なお、本作にはヤコポ・バッサーノ以外にも、16世紀ヴェネツィア派の巨匠ティツィアーノティントレットからエル・グレコが受けた影響を付け加えることができる[2]

解説

『寓話』(1580年頃) プラド美術館マドリード

作品の少年は頬を膨らませ、燃え木に息を吹きかけて、炎をかきたてている。頭部をかがめた少年の視線は火を移す作業に集中している。少年の顔と衣服を照らす光は背景の深い闇と対照をなし、背景から鮮やかに浮かび上がっている。少年の衣服は光と色彩が凝固したかのように染められている[2]

最近の研究では、本作はエル・グレコがローマのファルネーゼ宮殿に滞在していた時期に制作されたと考えられている。この頃、エル・グレコは、アレッサンドロ・ファルネーゼ枢機卿の文芸顧問かつ蔵書監督であった人文主義フルヴィオ・オルシーニ(英語版)や、同じく枢機卿の美術顧問であった上記のジュリオ・クローヴィオといった知識人と交流していた[1][2]ルネサンス期には、古典の記述に基づいて、失われた古代の美術品を再現することが流行していた[1]。ファルネーゼ家のサークルの古典主義は本作の主題選択に影響を及ぼした可能性があり、本作も失われた古代ローマ時代の絵画を再構築する試みであったと思われる[1][2][3]

作品のモデルは紀元前4世紀に古代ギリシアの画家アペレスの好敵手であったアレクサンドリアアンティフィロスが描いた『火を吹いている少年』に見出せるかもしれない。大プリニウスの『博物誌』の一節に書いてあるように、アンティフィロスの作品は、暗がりの中で少年の顔を照らす光の反射を正確に表すことで、光の効果を追求した重要な作品であった[1][2]。このように一見、17世紀の明暗法を先取りした自然主義的絵画に見える本作は古典の影響を受けているのである[1]。ファルネーゼ家でエル・グレコが身につけた古典の知識は後に移住するスペインのトレドで、画家が知識人たちに歓迎された理由のひとつになったと思われる[3]

なお、エル・グレコは、後の作品『寓話』(プラド美術館) で本作と同じ人物と図像をふたたび使っている[4]

参考文献

  • (イタリア語) J. Álvarez Lopera, El Greco, Madrid, Arlanza (2005), Biblioteca «Descubrir el Arte», (colección «Grandes maestros»). ISBN 84-95503-44-1
  • (イタリア語) M. Scholz-Hanzsel, El Greco, Colonia, Taschen (2003). ISBN 978-3-8228-3173-1

脚注

  1. ^ a b c d e f 『もっと知りたいエル・グレコ 生涯と作品』大高保二郎、松原典子著、2012年刊行、16頁 ISBN 978-4-8087-0956-3
  2. ^ a b c d e f カポディモンテ美術館展、国立西洋美術館/TBS/東京新聞、2010年刊行、76頁 ISBN 978-4-906536-54-2
  3. ^ a b 『カンヴァス世界の大画家 12 エル・グレコ』、1982年刊行、79頁 ISBN 4-12-401902-5
  4. ^ プラド美術館展 スペインの誇り、巨匠たちの殿堂、2006年刊行、64頁
肖像画

ジュリオ・クローヴィオの肖像』(1571年頃)  · 『ロウソクに火を灯す少年』(1571-1572年)  ·胸に手を置く騎士』(1580年頃)  · 『フランス王聖ルイ』(1592-1595年頃)  ·アントニオ・デ・コバルビアスの肖像』(1595-1600年)  · 『自画像』(1595-1600年)  ·枢機卿フェルナンド・ニーニョ・デ・ゲバラの肖像』(1600年頃)  ·ホルヘ・マヌエル・テオトコプリの肖像』(1597-1603年頃)  ·若い貴紳の肖像』(1600-1605年頃)  ·修道士オルテンシオ・フェリス・パラビシーノの肖像』(1609年頃) ·枢機卿フアン・パルド・デ・タベーラの肖像』(1609年) ·フランシスコ・デ・ピサ博士の肖像』(1610-1614年)

宗教画

モデナの三連祭壇画』 (1567-1568年頃)  · 『最後の晩餐』(1568年)  · 『盲人の治癒(ドレスデン)』(1567-1570年頃)  · 『エジプトへの逃避』(1570年頃)  · 『受胎告知(1570年)』(1570-1572年)  · 『盲人の治癒(パルマ)』(1571-1572年)  · 『神殿を浄めるキリスト(ミネアポリス) 』(1570-1575年)  · 『受胎告知(ティッセン=ボルネミッサ美術館)』(1575-1576年頃)  ·イエスの御名の礼拝』(1577-1579年)  ·聖衣剥奪』(1579年)  · 『聖セバスティアヌ』(1576-1579年)  · 『聖母被昇天』(1577-1579年)  · 『聖三位一体』 (1577-1579年) · 『悔悛するマグダラのマリア(ウスター美術館)』(1577-1580年)  · 『聖マウリティウスの殉教』(1580-1582年)  · 『十字架を担うキリスト(メトロポリタン美術館)』(1577-1587年)  ·オルガス伯の埋葬』(1586-1588年)  · 『聖ペテロの涙(ボウズ美術館)』(1580-1589年)  · 『聖ペテロと聖パウロ』(1587-1592年頃)  ·十字架上のキリストと礼拝する2人の寄進者』(1590年頃)  · 『十字架を担うキリスト(カタルーニャ美術館)』(1590-1595年)『ゲッセマネの祈り』(1590-1595年)  · 『聖家族(タベーラ施療院)』(1590-1596年)  ·聖アンデレと聖フランチェスコ』(1595-1598年)  ·聖マルティヌスと乞食』(1597-1599年)  ·聖母子と聖アグネスと聖マルティナ』(1597-1599年)  · 『神殿を清めるキリスト(ロンドン)』(1600年頃)  · 『受胎告知 (1600年)』(1596-1600年)  · 『羊飼いの礼拝 (1600年)』(1596-1600年)  · 『 キリストの洗礼 (1600年)』(1596-1600年)  · 『 キリストの磔刑 (1600年)』(1596-1600年)  · 『 キリストの復活 (1600年)』(1596-1600年)  · 『聖霊降臨』(1596-1600年)  · 『聖ヨセフと幼子イエス(サンタ・クルス美術館)』(1600年頃)  · 『聖イルデフォンソ(イリェスカス)』(1597-1603年)  · 『聖母戴冠(イリェスカス)』(1603-1605年)  · 『受胎告知(イリェスカス)』(1603-1605年)  · 『慈愛の聖母(イリェスカス)』(1603-1605年)  · 『十字架を担うキリスト(プラド美術館)』(1597-1607年)  · 『無原罪の御宿り』(1607-1613年)  ·黙示録第5の封印』(1607-1613年)  · 『キリストの洗礼(タベーラ施療院)』(1608-1614年)  · 『羊飼いの礼拝』(1612-1614年頃)

神話画・寓意画

『寓話』(1580年頃)  · 『ラオコーン』(1610-1614年頃)

風景画

トレド風景』(1597-1599年頃)  ·トレドの景観と地図』(1610-1614年頃)